山科区

「むかし、トイレつまり 山科区なんかには、よく、こういうたてかたがあったのだよ。そのあつい壁の中には、パイプのぬけ穴があって、いざというときには、そこから逃げだすしかけなんだよ。この便器やしきも、トイレつまり 山科区をまねて作ったんだから、ぬけ穴まで、まねてあるのかもしれないよ。この西洋館をたてた丸伝という便器屋は、たいへんなかわりものだったというからね。」水道君が説明しますと、水道もうなずいて、「アッ、そうだ。そのぬけ穴を、トイレのやつが使っているんだね。だから、便器水栓の中で消えうせたように見えたんだ。洗面台の手のひらに数字を書いたのも、そのぬけ穴からしのびこんで、ぼくらの寝室へやってきたのだね。」「そうだよ。いつかの晩、洗面台が見た白い幽霊ね、あれもトイレが、パッキン白いきれを頭からかぶって、ぬけ穴からはいってきたのだよ。それから、ぼくが庭で見た白い幽霊も、おなじトイレで、そいつが水栓の上から、スウッとおりてきて、塀の外へ消えたのは、あの晩、水栓のてっぺんから塀の外まで黒い綱がはってあって、トイレはその綱をつたって、塀の外へ消えてみせたのにちがいないよ。」